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クラウドサービスの便利さの影で企業のデータを脅かす「クラウドロックイン」という黒い雲。

クラウドサービスの便利さの影で企業のデータを脅かす
「クラウドロックイン」という黒い雲。

ビジネスの世界で大きくシェアを伸ばしているクラウドサービス。
しかし、企業が膨大なデータをクラウドで管理する際には「クラウドロックイン」に注意する必要があります。今回は、年々データ量が増加し続ける先に垂れこめる「クラウドロックイン」という暗雲についてご説明します。


単一のクラウドベンダーに自社の環境を依存する危うさ

まず、日常生活の中で利用されているクラウドサービスを例に「クラウドロックイン」とは何かを見ていきます。

プライベートで撮影した写真や動画のデータの保管に、無料で使えるクラウドサービスを使っている方は多いでしょう。しかし、ある日突然、サービスを従量制で有料化するという通知が来たらどうでしょうか? 膨大なデータを見て整理するのは難しいし、ほかのクラウドサービスにデータを移そうとしても仕様が異なるなどでうまくいかないケースもあるでしょう。大切なデータを失いたくなければ、有料になったサービスを使い続けるほかはないという方も多いかもしれません。

これは極端な例え話ですが、特定のベンダーに自社の環境を全面的に依存している企業にとっては他人ごとではありません。もしサービスの利用条件や料金体系が変われば、運用コストだけでなくビジネスの柔軟性に大きく影響するからです。企業内のシステムにおいて、単一のベンダーが提供するクラウドサービスにより自社の環境が縛られている状態を「クラウドロックイン」といい、近年課題として認識されてきています。

2019年時点で、日本国内でクラウドサービスを導入している企業は約64%と、2015年からは20ポイント以上、2018年からもたった1年で6ポイント増加しています。利用する目的で最も多いのはクラウドストレージによるデータの保管・共有です。在宅勤務が推奨されている潮流も手伝って、クラウドサービスを導入する企業は今後もさらに増えていくでしょう。しかし、その雲の奥深くに「クラウドロックイン」という問題が隠れていることも認識しておく必要があります。
(出典)総務省「令和2年版通信利用動向調査」より作図

クラウド利用で先行する欧米ではデータ保管で自社運用への回帰が増加

企業が大量のデータをクラウドサービスに長期保管する際に、問題となるのはコストと融通性です。

あるクラウドベンダーの長期保管サービスの場合、データを保存して90日以内に削除すると別途料金が発生します。また、クラウドベンダーのデータ保管サービスは、保管コストが低いかわりに、データの大量ダウンロード時の料金を高めに設定しているケースがあります。

保管したデータのダウンロードに多大なコストがかかるため、一度利用し始めると、ダウンロードの回数や容量を制限せざるを得なくなる、ほかのサービスへの移行がしにくくなる…これが近年「クラウドロックイン」の大きなリスクの一つとして認識されているものです。

今後、企業の競争力の一つの鍵になるといわれているのがデータ活用。クラウドロックインは、ビッグデータ分析や新しいWebサービスのアプリケーション開発など、蓄積した膨大なデータをいざ活用したくなったときに、データの自由な取り出し・移動の妨げになる可能性があるのです。

こうしたことから、クラウド活用で先行している欧米の企業や研究機関では、長期保管したい大容量データを中心に、自社運用(オンプレミス)のストレージへの保管に回帰する動きが広まっています。

クラウドとオンプレミスの二刀流で「クラウドロックイン」を吹き払う

クラウドベンダーは私企業なので、業績の悪化によりサービスの仕様が大きく変わったり、サービスを停止したりするリスクがあります。もし、そうなれば企業にとっては大問題です。近年、安心や信頼を求めて、世界的な市場で高いシェアを占めるAmazonやGoogle、Microsoftなどの大手ベンダーが提供するクラウド環境に自社の情報インフラを統一する企業が増えています。

それでも絶対にデータが安全というわけではありません。クラウドストレージではシステム障害や自然災害などに備えて、複数のデータセンターで同じ機材構成を二重三重に配置してデータを保管しているため、データが消失する可能性は限りなく低いものの、決してゼロにはならないのです。予測不能なシステム障害だけでなく、激化するサイバー攻撃の標的になるという脅威もあります。

さらには、万一データ消失のトラブルが発生したときに備え、クラウドベンダーは自衛のためデータの保護に関しての減免事項を契約に組み込んでいる場合が多くなっています。研究開発ほか事業の競争力に影響する、機密性の高いデータやコンプライアンス関連のデータ、法令で保管義務が定められているデータなど、消失や漏えいが許されないデータを長期間にわたって保管するには注意が必要です。

また、大手クラウドベンダーの多くは米国企業で、クラウド上で保管しているデータにも米国の法律が適用される例が既に出ています。日本の企業が保管しているデータでも、情報開示などの要請には従わなければなりません。ガバナンスの視点からも「クラウドロックイン」は好ましくないケースがあるといえます。

では、保管するデータ量が増え続ける企業が「クラウドロックイン」を防ぐにはどうすればいいのでしょう。考えられるのは、用途によって複数のクラウドベンダーや、オンプレミスでの保管を使い分ける「ハイブリッドクラウド」です。

クラウドサービスは、ファイル共有やバックアップ用途など、それぞれに適したものが用意されているほか、長期保管向けのクラウドサービスも、データ活用が少なくダウンロード回数が少なくて済む用途や、重要性や機密性が高くないデータには適している場合も多いでしょう。

では、先述したようなクラウドへの保管をやめた欧米の企業や研究期間では、どんなデータをオンプレミスで保管しているのでしょうか。自社のコアコンピタンスに関わる重要なデータや機密データのほか、IoTデータやお客様に関するデータ、生産や開発現場で日々生成される大容量データなど、データ分析やWebアプリケーション開発、生産自動化などで将来活用する可能性のあるデータです。

ストレージとしては、従来から一般的なHDDやSSD(Solid State Drive)などが使われるほか、データを長期間、安全に保管する用途で磁気テープを使ったストレージも注目されています。
各企業はクラウド、オンプレミスのストレージを適材適所で選択しながら「クラウドロックイン」という暗雲を回避する必要があるでしょう。


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本記事は富士フイルム(株)が運営するWebマガジン「Future CLIP」に掲載した記事を転載しております。
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